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映画「鑑定士と顔のない依頼人」(ネタバレ)

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映画「鑑定士と顔のない依頼人」を観ました。
タイトルにある「鑑定士」というワードに、思わずひきつけられてしまった不動産鑑定士です。もっとも、扱うのは不動産ではなく古美術品。世界は違えど、「鑑定」という行為の孤独さや緊張感には、どこか通じるものを感じました。

主人公は渋めのおじさま鑑定士。忙しそうで、高圧的で、仕事は完璧主義。人付き合い、とりわけ女性との関係には強い距離感があり、バリアを張って生きているように見えます。一人でいることを楽しんでいるようにも見えるけれど、家の中にはこれまであらゆる手を尽くして集めたであろう女性の肖像画がずらり。その絵に囲まれて過ごす時間が、彼にとっての安らぎなのだろうな、と感じました。生身の人間との関係は断ちつつも、「女性」という存在そのものには強く執着している、そんな歪さも見えてきます。

そこに突然現れる「顔のない依頼人」。
よく考えれば、最初から鑑定士を指名している時点でかなり不自然なのですが、観ている側もその違和感はいったん脇に置いてしまう。徐々に心を惹かれ、惹かれてはいけないのでは、という理性と、それでも前に進みたいという感情の揺れ。こんなに年の離れたおじさんに?という疑念や不安。それでも「分かり合えた」と感じた瞬間は、彼にとってはきっと人生で初めての体験だったのだと思います。

だからこそ、その後の裏切りは本当にきつい。
信頼していたものからの裏切りは、精神的に致命傷になりかねない。大切にしていた絵画が失われたことよりも、彼女を失ったことのほうが、何倍も何十倍もつらかったはずです。それでも、どこかで「また会えるのでは」という淡い期待を捨てきれない姿が、あまりにも哀れで、観ていて胸が痛くなりました。
ただ一方で、あの時間があったからこそ、彼の人生は一瞬でも色づいたとも言えるのかもしれません。幸せだった時間があったからよかったのか、それとも知らないままの方がよかったのか、答えは出ません。

「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」

観終わった後、なんとも言えない暗い気持ちが残りました。悪事をしていたからのその報いか!?
そして正直、ストーリーでよく分からない部分も多い。誰までがグルだったのか?
結論から言うと、依頼人の女性だけでなく、修復師の青年、オークション関係者、さらには周囲の人間関係まで、かなり広範囲で計画された詐欺だったと考えるのが自然だと思います。彼が「信頼できる」と思った相手ほど、実は仕組まれた駒だった。その構造自体が、この映画の一番残酷なところなのかもしれません。怖すぎる・・・

鑑定という、価値を見極める仕事に人生を捧げてきた男が、人の心だけは見誤ってしまった物語。
鑑定士という立場だからこそ、より深く刺さる一本でした。